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最高裁判所第二小法廷 昭和32年(し)55号 決定

主文

本件特別抗告を棄却する。

理由

本件特別抗告の趣意は末尾書面記載のとおりである。

記録によると、被告人岡本光雄らに対する騒擾等被告事件の第一審たる東京地方裁判所刑事第一一部の昭和三二年九月五日および同月二五日の公判期日において、証人小幡充親(警視庁巡査)は弁護人の反対尋問に対し、職務上の秘密にわたる事項である旨申し立て、同年一〇月二五日その監督官庁たる警視総監は、国の重大な利益を害することを理由として承諾を拒み、同月二九日の公判期日において裁判長は、右証人に右尋問に応ずることを命じなかった。そこで弁護人(申立人)から裁判長の右不作為の処分は刑訴一四四条但書にいう「国の重大な利益を害する」との要件を具備しない証言拒絶を許容した違法があるとして異議を申し立て、これに対し裁判所は右異議を棄却する旨決定し、その理由として、証言によって国の重大な利益を害するか否かの点について裁判所は当該監督官庁の意見に拘束されるものと解すべきであるからと説示した。右決定に対して弁護人から本件特別抗告の申立がなされたのである。

しかしながら、本件証拠調に関する異議申立棄却決定の如き「訴訟手続に関し判決前にした決定」は刑訴四三三条一項にいわゆる「この法律により不服を申し立てることができない決定」にあたらないものである(昭和二六年(し)第七一号同二八年一二月二二日大法廷決定集七巻一二号二五九五頁、昭和二九年(し)第三七号同年一〇月八日第三小法廷決定集八巻一〇号一五八八頁、昭和三〇年(し)第四五号同年一〇月二八日第二小法廷決定、昭和三二年(し)第三二号同年七月三〇日第三小法廷決定各参照)。従って、所論憲法違反の主張につき判断するまでもなく、本件特別抗告は不適法として棄却を免れない。

よって刑訴四三四条、四二六条一項により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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